水道山公園から王城山へ


 大磯町の都市公園の中には城山と高麗山、2つの「風致公園」が存在する。城山公園は楽勝で行けるからいいとして問題は高麗山だ。平塚市の湘南平から尾根伝いに歩けば頂上もわけはない。しかし、大磯側から登るのは道が結構きつく、根性なしの(現在の)私には無理そうだ。ならばせめて、高麗山公園の一角を形成しているらしい「王城山」に登ることにしよう。幸い大磯所在の「水道山公園」とは距離も近いうえ、そちら側からなら車も通れるほどの道が引かれているようだ。ということで、まずは水道山を訪ねてその足で王城山に登り、下山だけは登山道を使うことにした。

【水道山公園】その名のとおり、県水道局大磯配水池の敷地の一角を町が借り受けて公園にしたものらしい。
 まあ“山”って付くぐらいだから、ここへのアクセスも楽ではなかった。実は私、一度トライしながら急坂に恐れをなして引き返してしまった前科もあるのです。
 ここ基本的に観光スポット扱いでないので、公園へ導く道標などは一切ない。しかもアプローチが相当わかりにくいときたもんだ。とりあえず東海道(旧道)の化粧坂のあたり、「一里山スターハイツ」というアパートを目標にしてください。その反対側の細道を入り、道なりに進み左にカーブを描き、やがて右手に急坂が分岐するのでそこを登る(直進し山を巻くようにしても行けるが、かなり遠回りになる)。まさに胸突き八丁な急登であるがそんなに距離は長くない。やがて大磯配水池の正門、そのままフェンス伝いに歩いて左折すると公園が現れる次第。







 こんな場所があったのか、ちょっと感激。周囲に人気(ひとけ)がない・・・なんてことはない、すぐそこまで人家が迫っているあたりは大磯の大磯たる所以なのだがとにかく静かである。



 野外卓が2つある。
 眺望がないのは残念だが、隠れ家的なおすすめ公園であるのは間違いない。

【王城山】
 大正6年に銀行王・安田善次郎が山一帯の土地を購入して山麓に別荘を建てた(現・安田不動産大磯寮)。山上は私有地でありながら市民に開放、「小千畳」の名で公園として整備された。昭和3年版『大磯案内』によれば、

此の山は風光絶佳、大磯の市街一目の中に収まり来つて、別荘旅館一々指さすことが出来る。樹あり 石あり 花あり 鳥あり、自然の風致に任して、多く人工を加へない。ベンチは以て脚を憩うべく、四阿は以て涼風を呼ぶに足りて る。海浜は眼下に在つて、眺望千畳敷(注:湘南平のこと)に譲らない。小磯の浜で網を引く人は豆粒が動くが如く、花水川尻の白鷺は、波と見紛つて判然分らない。此の山は市を距ること目鼻の間にあるから、登臨するもの毎日其跡を絶たない。

ということだったそうだ。
 私、20年ほど前にこの山を目指したことがある。どこの登山口から入ったかは忘れたが、とにかく途中で道を間違え、気付いたときには湘南平に立っていたのだった。
 今回は車も通れる道伝いなので迷うことはあるまい。水道山を下って王城山の裾を巻くようにゆるやかに登る。しかしこんなところにも家は建っている。
 道はほとんど舗装されている。やがて県水道局の大磯高区配水池。こっちにも配水池があるんだ。ここで道は途切れ、足元一面の草むらとなった。山頂に着いたようである。



 安田善次郎が建立した「明治天皇観漁記念碑」があった。上で引用した「大磯案内」掲載の写真を見ると、記念碑に隣接してあずまや、足元の芝は実によく管理されていて(白黒だからはっきりとはわからないものの)たしかに相模灘が一望できるようだ。がしかし、今私の足元の草は伸び放題で記念碑にたどり着くにも慎重に踏み跡を探して歩かねばならぬ始末。そして「風光絶佳」なはずの眺望はまったくなし。下界の樹木が成長し過ぎてしまったようだ。こんなうらぶれた現状、私のほかに登臨するものなどいるわきゃあない・・・あれ、向こうから人が来たぞ。配水池の巡回保守員の人らしい(さっき水道山でも見かけた)。さすがにこの状況下で言葉を交わさないのも不自然なので挨拶し「大磯の街のほうへはどこから下ればいいんでしょうか」と訊ねてみた。ところが「私もここ来たの初めてなんです」だって。参ったなこりゃ。とにかく昔日の面影ない王城山頂(と水道のおじさん)に別れを告げ、見回したなかで唯一登山道ぽい道を下ってみる(山頂の写真、もっと撮っておけばよかったと後で後悔)。
 最初は道幅広く勾配もさほどでなかったが、下に行くにつれシビアになる。今の季節、歩く人もほとんどいないのだろう。最後はヤブ漕ぎ然となり命からがら、なんとか人里に帰還できた。降り立ったのは安田邸横、どうやら予定どおりのルートで下山できたようだ。
 ということで王城山上にもはや戦前の面影は全然残っていません。いずれにせよ行ってみるなら草枯れた冬場がいいだろう。

 


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