※重要な補足事項あり。ページいちばん下を乞参照。(2010.2.20)

※この文章を書いてから5年以上経過した。どうやら高木酒造の地元ブランド「朝日鷹」のレギュラー酒も糖類添加を止めたようだ。「十四代」ブームの加熱もひと段落した感もあり、そろそろこの文章を引っ込めてもよい頃かなとも思ったりもする。しかし「十四代」自体は相変わらず普通に#モ、ことのできないブランドであるし、2003年の焼酎や、日本酒蔵のdancyu銘柄≠ネどの動きを顧みるにつけ、私が5年前に書いた文章、特に最後の3行についてはこれからも強く訴えて行きたいと考えるものであるため、そのままの形で残すことにいたしました。(2005.12.30記)

それでいいのか「十四代」
〜木顕統氏のバラエティ出演に思う〜

 今日の昼、だらだらとテレビを見ていたら、『ウチくる!?』(CX系)という番組で思わぬ光景が飛び込んできた。
 芸能人が自分の故郷を案内するこの番組、MCの中山秀征が自称・日本酒通のため、日本酒が登場することが多い。先日山田まりやが三河の「蓬莱泉」を名古屋の地酒≠ニ誤って紹介したのもこの番組だった。さて、今日のゲスト(というか、案内するんだからホストか)は歌うサクランボ農園主¢蜷逸郎。無論案内するのは山形。そして、お約束の宴の場面で話題は「十四代」へ。
 『山形っていえば「十四代」ですよねえ』『でも地元でもなかなか手に入らなくって』落胆する中山。そこへ口をはさんだのが今回同行していた山形出身の武田祐子アナ『そこで、私が用意させていただきました!』一同盛り上がる。で、襖が開いてかの「十四代 特吟」を抱えてにこやかに現れたのは、なんと十五代目″vリ顕統氏ご本人…。

 僕が初めて「十四代」という銘柄を知ったのはたかだか3年4ヶ月前の話である。その時は珍しく普段あまり行かないような地酒専門店で「喜久酔」なんか買い求めたのだが、店主のおじさんの口から「磯自慢」とかと共に出た銘柄が「十四代」だったのである。正直なところ、一度も聞いたことがない名前だったので家に帰って手元の資料を漁ったところ、どうやら山形の酒らしいことがわかった。でも自分がこれまで足を運んだ酒屋や飲み屋では見かけたことがない。
 それからほどなくインターネット時代が到来し、僕も職場で周囲の目を盗んでネットで日本酒について調べものをするようになった。そして、どうやら日本酒マニアの間では「十四代」というのは凄い酒だと認識されていることがわかった。ただ、いずれにしても自分の周囲で手に入らないものだから、僕の中では「十四代」は遠い存在であった。

 あれから3年4ヶ月、カップ酒マニアを名乗るようになった僕の中で、「十四代」は今なお遠い存在である。後にも先にも飲んだのは1度きり。職場の人間との飲み会で会場だったちょっと高級風の飲み屋に「本丸」がさほど高くない値段で置いてあった。早速周囲の日本酒好きの人々にも薦めつつ頼んで飲んでみる。うん、旨い。周囲の日本酒好きの人々も皆ほめてるぞ(ちょっと株上がったかな)・・・。
 と、飲んだのはこの1度きり。

 この酒を飲む機会がないのは、僕自身の心境に起因するものも大きい。
 拙サイトを日頃見ていただいている方はお分かりと思うが、僕は自分が愛飲する日本酒を選ぶ基準を地元で愛され、かつ地元で普通に手に入る銘柄≠サして三増酒を造っていない蔵元の酒≠ノ主眼を置いている。そして、現状において「十四代」は、その双方の基準を満たしていない。
 昨年5月、実際に山形県内で「十四代」がどんな感じで売られているか、山形市および地元村山市を中心に歩いて回ってみた。結果、全然置いてないことがわかった。たしか前年訪れたときには置いてあったと記憶している酒屋にも見当たらなくなっていた。
 一応誤解のないよう申し上げておくが、「十四代」の蔵元、高木酒造の旧来の銘柄は「朝日鷹」であり(それすら知らぬ人が多いのは嘆かわしい)、無論地元では「朝日鷹」は今でもしっかり売られている。しかし、人々の興味が「十四代」にシフトして行く中、「十四代」目当てで地元を訪ねるファンも少なくないはず。少なくとも、蔵元にはそういうニーズに応える義務があるのではないか。地元で手に入らない地酒≠フ道を歩つつあることは果たして蔵元にとって喜ばしいことなのだろうか。
 もうひとつ。上記「朝日鷹」の普通酒には糖類が入っている。三増酒の問題は世間がどう思っているのかもう最近ますますわからなくなっているので軽々しく触れたくはないのだが、とにかく個人的にはそういうのは嫌だな、ということである。
 
 そんなところへ、十五代目のバラエティ番組出演である。別に目くじら立てるほどのことじゃないとお思いの方も多いとは思うが、僕にはそこに顕統氏の庶民性との遊離≠感じた。バラエティで芸能人と戯れることが庶民性≠ナはあるまい。
 「十四代」を手に入れたくてもそれが叶わない酒屋や飲食店が全国にはたくさんある。仮に買えるとしても、法外なプレミアがついているケースも多い。このあたり、流通面ではだんだんと「越乃寒梅」のような状況に近づきつつある。無論、蔵元もそれを避けるために出荷量を調整しているのだろうが、それにより市場ではますます品薄感が強まって結局はさらにプレミアがつく、という悪循環が生じている。素人考えでは「朝日鷹」の出荷量を減らしてでももう少し「十四代」の生産量を増やせないのだろうかとも思うのだが、一度得た名声を落とさないためにはこれ以上増産できないということなのだろう。恐らく。

 だからこそ、バラエティになんか出てはいけないのである。
 幻の酒≠ニちやほやされることは、蔵元にとって名誉なことなのだろうか?
 「十四代」を飲みたいというみなさんの期待に応えられなくてすみません≠ニいう、謙虚な姿勢を示すべきではないだろうか?
 人々はナショナルブランドの広告攻勢を非難するが、今回の件はそれとどれだけの違いがあるのだろうか?
 
 「十四代」および木顕統氏のブレイクが全国の蔵元の若い跡取りに与えた影響はきわめて大きい。第二の「十四代」≠目指して新しい波が起き始めているのは歓迎すべきことである。だからこそ、そのパイオニアたる高木酒造には以下のようなことを望まずにはいられない。
(1)せめて地元では(村山市内だけでいいから)「十四代」が普通に買える環境を整えてほしい。
(2)地元銘柄の「朝日鷹」の普通酒を糖類無添加にしてほしい。
(3)カリスマ蔵元は常に謙虚であれ。バラエティになんか出るな。

(補足)本コラムは1999〜2000年当時の状況下において執筆したものである。今改めて読み返すとよくもまあ"上から目線"で書けたもんだと自分に呆れてしまう。その後「十四代」を飲んだのは2004年に一度きりである(美味しかったです)。
 さて、先日山形在住の方よりメールにて「十四代」に関する情報提供をいただいた。たいへんな事情通の方のようで、私の存じ上げないことを多々ご教示いただくことができた。蔵元(顕統氏)が県外に販路を求めた(求めなくてはならなかった)事情についても教えていただいたのだが、他メーカーの固有名詞も出てくる話なので詳細をここに記すことはしない。しかしいずれにせよ、やむにやまれぬ事情があったということらしい。
 私のテキストをどうこうするということではないが、重要なことであるのでここに補足いたします。


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